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時津賢児コラム from france
ダニエル君の誕生日 2008.2
 
前回ダニエル君のことを紹介しましたが、一言付け加えます。
この2月2日に彼は24歳の誕生日を迎えました。
家内と二人で彼の誕生日祝いのことを考えている矢先、ダニエル君が私に言ってきました。
「私の誕生日祝いについて奥さんと相談されているのを耳にしました。もしもお祝いのプレゼントをいただけるなら、先生との一日稽古というプレゼントをいただけないでしょうか?」
面白いことを言うなあと思いつつ、
「いいだろう。誕生日の当日は雑用は一切なし。食べて稽古し、夜は稽古のあとで一杯やりましょう。」
誕生日の夕食は、私が焼肉をご馳走することにして、前日から買出しに行きました。

2月2日、ダニエル君の誕生日。
午前中は立禅を主体に4時間の稽古をやりました。

ここで私の立禅に付いて一言。
立禅という訓練法を私は82年に日本のある先生から習い、それ以後ずっと馴染んできました。その後、意拳の創始者の王饗斎師の弟子であった宇永年先生に89年にロンドンで会って、初めて意拳の手ほどきを受けました。私はその後、北京に二度行って宇先生の細かい指導を受けました。その当時の貴重な体験談は、いずれ書くつもりです。
宇先生の指導される立ち方は大変細やかで、初めて立ち方を直された時の記憶は今も鮮明に残っています。
この時学んだことを、私はダニエル君にそのまま教えました。
初めは大まかな姿勢をとって立ちます。
姿勢がほぼ決まってきた頃、重心の位置を直されます。宇先生の指導される立ち方では、この重心の位置が大変重要になります。脚が疲れてくると誰でも一人でに楽な体勢を取って、そこに落ち着いてしまいます。動かないで立っているつもりなのですが、自分が体勢をいつの間にか崩しているということに誰も気付きません。そこで、ちょっと手を触れて重心の位置を訂正されます。ほんの2,3センチなのですが、直された人はその途端に脚が震え始めます。脚の痛さに耐えてその位置を保っているつもりでも、悲しいかな、いつの間にかまた重心を楽な位置に戻してしまいます。そこでまた1、2センチ直されるや激痛が脚全体を通過し、脚から身体全体が振るえ始めます。外目には、「どうして一人で震えているんだろう?」と、不思議に見え、滑稽な感じさえしますが、震える当人は「こんな痛さがあったのか」と驚くほど痛いのです。
宇先生の方法論では、「そうした段階を経て、下半身が十分強くなって初めて意念を働かせることができる」ので、こうした体験は必須です。
「意拳では意念を使うのだが、その前の段階として意念を使える身体を作らなければならない」という方針で宇先生は教えられていました。
そうした体験を次回のセミナーで皆さんと少しやってみましょうか。
ダニエル君にはそれをやってみました。
後ろ脚から全身に渡ってがたがた震えます。そのうち震えなくなったと思っても、ちょっと姿勢を直すとまたがたがたです。20年近い昔の自分の体験を思い出しながらしばらく続行しました。
この日は午前中4時間、午後また4時間。最後に組み手を30分ほどやって終わりました。
ダニエル君は手摺りに寄りかかって3階の自分の部屋の登り下りをしていました。
私はかつての自分の体験からその辛さは十分すぎるほど分かっていますが、エキスパートになろうと思う者にとってこれは通過せざるを得ない関門だと思っています。
夜は私が準備した焼肉料理を前に彼の24歳に乾杯しました。
「すばらしい誕生日の贈り物をいただき、有難うございました」と、ダニエル君は喜んでくれたので私も嬉しく思ったことです。
翌日は日曜日で時間は自由なので、また4時間ほど稽古につきあいました。
以上、ちょっと変わったダニエル君の誕生日祝いについて。

では、また。
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